読書日記及び過去の読書         〆(・_・ )メモメモ


by merrygoround515

『ひとがた流し』  北村薫

ひとがた流し
北村 薫 / / 朝日新聞社
スコア選択: ★★★★






私は、北村氏のファンだ。 それも大ファンである。
この作品は、第136回直木賞の候補になった作品だ。
候補に挙がった段階で、初受賞だ!と信じて止まなかった。
16日の発表を待てず、前日から前夜祭だ!と盛り上がり、呑みまくった。
結果は、ご周知の通り、納得の行かない結果だ。
阿刀田氏、ファンだったのに。
やけ酒と、いく気にもなれず、ふて寝した。寝覚めはもちろん悪かった。


本書は作年に読了しているが、北村氏の作品を紹介したく…
話題の本書を、取り上げることにした。
大ファンであるということには、一つ欠点がある。
他の方がイマイチと感じる箇所も、イイと思ってしまうのだ。
よって、この作品で私と同じ評価を、感じる方は少ないかも知れない。


北村氏といえばミステリィ作家だが、この作品はミステリィではない。
<日常の謎>=ミステリィを書き続けた著者が、
本書では「日常」だけを綴ってる作品だ。

あくまで筆致は淡々としています。
前半の平穏?漂う取り止めのなさには、疑問の声もあるでしょう。
でも、作中に散りばめられたエピソードの数々を、
一つ一つ丹念に読み進むと、心の深い部分を、
ちょこっと刺激するような、優しい感動があります。
小さな出来事も、忘れていた記憶も、みな未来へと繋がっている……。

悪いが『世界の中心で愛をさけぶ』あたりとは、比較にならない。
嘘だと思うのなら、読んでみてください。
また「セカチュー」でも「いま会い」でも泣かなかった方や本では泣けない方、
そんな方にこそ、お薦めしたい。



内容は、
TV局のアナウンサー千波、作家の牧子、元編集者で写真家の妻になった美々、
40代を向かえ「桐箪笥の街」とその周辺で暮らす、幼馴染の三人の女性たちが
軸となり、その日常が描かれた物語。
ストーリーはいたって簡単、というかストレート。
だが、その中身は決して簡単でも、単純なものでもない。
この作品で、生きるということの本質を、少なからず、感じることができた。


以下、印象的な箇所をいくつか引用する。

『本当に小さな、次の日になったら忘れちゃうようなことだよね。──でも、
 そんなちっぽけな思い出が、どういうわけか、いつまでも残ったりする。
 ──小さなことの積み重ねが、生きてくってことだよね。
 そういう記憶のかけらみたいなものを共有するのが、要するに、共に生き
 たってことだよね。──早い話が、玲ちゃんがおばあさんになって、
 台所でさばの味噌煮を食べる時、ふっと、わたしのこと思い出してくれるかも
 知れない。その時わたしが、短い時間でも、そこに蘇るんだ。──
 ≪どう、味噌煮、おいしい?≫って』


『──何行かにまとめられるテーマがあって、それをそのまま伝えたければ、
 説明すればいい。そこに、絵や写真や音楽なんて≪表現≫はいらない筈だよ。
 ──そうなると我々の伝えたいのは、意図じゃなくて、そこから生まれた表現
 そのものになる。それこそが、人間にとって必要なものだ』


『千波は、よくいっていました≪やり直せないことが好きだ≫って』
『生きていると、消しゴムの使えないことばっかりじゃないですか。
 わたしなんかだと、気に病んじゃいます。ついつい後ろ向きになる。
 でも、千波は違った。たった一度しか通れない道を行くのが、好きな人でした』           

『子供ってさ、親に何かをさせてくれるだけで、
 ──そういう相手になってくれるだけで、もう十分、恩返ししてるんだけどね、』


『……女同士だったから、ただの友達で、……会わない時には、
 一年以上も会わなかった。……でも、今、考えれば、そんな時でも、
 あなたが……この世のどこかに、確かにいてくれるってことが、
 ずっと……わたしの、支えだった』


上記内の≪表現≫に、小説を加えると、それはそのまま北村氏の理念だろう。
という意見を聞いた。
まさに、その通り!北村氏の理念、本書で証明している。

日常生活の中で、こんな言葉たちは… 言えるものではない。
素敵な言葉だ。憧れさえ、感じてしまう。
このような、語り手の、まるで吐息のような会話で時間を追っていく、
優しい物語が本書だ。

優しさに包まれた中「死」や「不治の病」といった、重いテーマを扱った本書。
ですが、私は、爽やかな気分が得らた。
何故か、元気をもらえた…私だけなのだろうか?
北村氏の優しい、優しい物語。 是非、多くの方に読んでいただきたい。



■ 追 記
本書の装丁は、おーなり由子さん。
ご存知の方が多いとは思うが、北村氏とおーなり由子さんは、
『月の砂漠をさばさばと』(新潮社・文庫有り)に次いで、二度目のコンビだ。

月の砂漠をさばさばと
おーなり 由子 / / 新潮社
スコア選択: ★★★★





『月の砂漠をさばさばと』は、9歳のさきちゃんとお母さんの物語。
全13話の連作短編集。
9歳だったさきちゃんが、本書では高校生だ。 そして、やっぱり猫好きだった。
こちらを未読の方は、どうぞ本書と併せてお楽しみください。
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by merrygoround515 | 2007-01-19 08:26 | Book